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(January 2005, Torres del Paine, Patagonia, Chile)
TVのニュースに目が釘付けになった。
これまで日本で一番高い山は富士山だと信じられていた。その歴史的事実が突然、打ち破られた。女性キャスターの声が興奮で高ぶっている。埼玉県で六千メートル級の山が発見されたという大ニュースが伝えられていた。それだけではない、信じられないもう一つの出来事は、同じく埼玉県に海の存在が確認されたことだ。
埼玉に長年くらしてきた自分にとっても、沸きあがるような喜びだ。特徴のない漠然とした平野が広がり、風光明媚な山並みに縁がなく、もちろん、海はあるはずもなかった。その事実が、今日いっぺんにひっくり返ってしまった。なんとめでたいことだろう。素晴らしいニュースに気持ちが高ぶった。
報じるところによると、なんでもその山はあまりにも高く、周囲をおおう深い霧が晴れることがけっしてない。そして、あまりにも鋭く、針のように天空に突き出ているために、空からも見えないという。発見された海は山の裾野の深い霧の底に眠っている。その海はあまりにも静かで、音もなく、風もなく、においもない。海面の霧はいままで一度も晴れたことがない。
(January 2005, Torres del Paine, Patagonia, Chile)
この歴史的発見を祝って、山頂までの特別な観光列車が建設された。線路は山を螺旋状に巻きながら敷設されている。列車は三両ほどの短い編成で、黒部のトロッコ列車みたいな感じだ。押し寄せた観光客がさっそく列車に乗り込む。列車は針のような山頂からゆっくりと離れ、旋回しながら降下し始める。下界の景色は一面の霧の下でまったく見えない。列車は回転しながら降下し、次第に加速していく。徐々に遠心力がはたらいて、体が外に引っ張られるのを感じる。
おや、どうしたことだろう!?
次第に引っ張る力が強くなる。体が緊張してくる。手すりを握る手が汗ばみ、筋肉が硬直してくる。引っ張る力が強くなってきた。何としても手を離してはならない。必死に手すりにしがみつくが、外に引っ張る力はますます強くなり、耐え難いほどになる。乗客が悲鳴をあげ始めた。体が椅子から浮き上がり宙に舞い上がる。列車は深い霧を抜け、眼下に地上が見え始める。地上の風景が恐ろしいスピードで迫ってくる。列車は音をあげて加速し、乗客の手は次々と引き離される。振り切られて宙に投げ出された乗客たちは、まるで花びらのように優雅に回転しながら落下していく。
このままだと地面に叩き付けられてしまう。
手を離した方が良いのか!?どうする?どうする!
生き残る道はひとつしかない!
思い切って手を離し空に飛び出す。
(October 2006, Tokyo, Japan)
北の方で何かが爆発した。
光一閃、街が砂塵になって舞い上がった。膨大な土煙が空に立ちのぼり、巨大なかたまりが猛烈な勢いで向かってくる。
「まずい!いそいで!ビルの南側に身を隠して!」
あっという間の出来事だった。
超高層のガラスがこなごなに吹き飛ばされる。街は赤茶色の嵐の中に飲み込まれ、地面に叩き付けられた。ガラスの破片が烈風になって吹き荒れ、窓枠の鋼はちぎり飛ばされた。
一体何が起きたのか?
むき出しになった建物の骨組みが、衝撃の凄まじさを物語っていた。いたるところでビルが傾き、街は無惨に破壊されていた。
しかし、人々は懸命に生きようとしていた。
自ら傷つきながらも、となりの人を助けるために手を差し伸べようとしていた。
奇跡だった。一人も命をおとしていなかった。
私たちは生き延びたのだ。
(July 2005, Stockholm City Library, Stockholm, Sweden)
脳の中には夢のインデックスが隠されている。
インデックスを見れば、自分がみた夢をいつでも引き出すことができる。
その「声」が話すところによると、言葉はそれぞれ、そこにつながっている夢のストックをもっている。ある言葉を思いうかべると、つながりのある夢の一覧表があらわれる。その「声」は説明をつづけている。しかし、話している人の姿はどこにも見えない。あたりには誰もいない。何も存在していない。何もない空間。宙にういているような感覚。
その「声」がいうとおり、言葉をひとつイメージしてみた。しかし、その言葉の一覧表には何も登録されていなかった。ほかの言葉でイメージしてみる。すると一覧表の中に、登録されていた夢が現れてきた。
「うまくいきそうだ。」
そう思ったところで目が覚める。
(December 2005, Tokyo, Japan)
その金貨を手にした者は寿命が削り取られていく。
最初の七日目をむかえる朝に寿命は半分になる。その次の三日が過ぎるとさらに残りの命が半分に削り取られてしまう。次の二日、またその次の一日、その次の・・・。時間が過ぎていく度に残りの命が半分になっていく。寿命は限りなくゼロに近づくが、ゼロになることはない。
殺風景で荒涼とした場所に、たった一軒、酒場のような店がある。金貨は、その店で渡されることがある。テーブルに何人かの客があつまっている。そこに店の女主人が顔を見せる。妖艶で、どこか人間ばなれした容姿。女主人はテーブルの上で金貨を見せると、客を促して窓に近づく。窓はステンドグラスで装飾されていて、外は見えない。女主人はおもむろにステンドグラスを割ってしまう。すると、ガラスの間にぎっしりと詰め込まれていた金貨があふれてこぼれ落ち、何枚かが床に転がった。
「削り取る時間がゆっくりすぎやしないか?」
どこかから、微かに男の声が聞こえた。
「みんな、この金貨に手を出しちゃいけない」
自分の心の中で声が響く。
(December 2004, Patagonia, Chile)
(January 2005, Patagonia, Argentina)
氷の大地。人類がつくったものは見当たらない。
すでに仲間が大勢きている。大地にはペンギンがたくさんいる。
私は若い女性と一緒にいる。肩くらいまでに揃えた髪。落ち着いた声。
「めずらしい生き物がいるわよ。ほら、あそこよ。」
よく見ると植物のかげに光沢のある黒い玉が動いている。ビー玉よりも少し大きい硝子のような玉がいくつか繋がって動いている。
足下に小さな恐竜が走って来た。手のひらくらいの大きさで紫をおびた青い色をしている。目の前でさかんに動き回って、何かアピールしている。その仕草が面白くて写真を撮る。すると、恐竜はいろいろなポーズをとり始めた。
「これ、細くて食べるところがなさそうね。」
「むこうはこっちを食べるつもりかも知れない。」
「けど、脚の関節を外せば身がとれそう。」
集まってきた仲間の雑多な声が聞こえる。
にわかに、恐竜の目に警戒の色がうかぶ。
(December 2004, Patagonia, Chile)
群衆が森の広場に集まっている。
数えきれない小枝と葉っぱが空にかかげられている。
大勢の人が小枝を手に持ち、空に向けている。
小枝のひとつに小さな虹が架かった。
「虹が出た!」
人々の中に喜びの感情が伝わる。
「あなたの葉っぱに虹が生まれるよ」
隣の人が話しかけてきた。
「ほんと?」
聞きかえして、両手いっぱいの小枝を見た。
すると、周りから
「虹!」
という声が聞こえた。
左手にもった葉っぱに淡く小さな虹が生まれていた。
その刹那、まだ見たことのない少女の顔が脳裏にうかんだ。
その少女にこの虹をあげたいと思った。

(July 2006, au Lapin Agile, Paris, France)
何人かで映画に来ている。「きみ」と一緒にいる。仲間の中にF氏がいる。他の人の顔は見えない。上映時間が長くインターミッションになる。映画館の外に出る。簡単な造りの建物(シネコンが入っているモールのような感じ)。フロントに広いパーキングがある。外はすっかり日暮れている。街灯りは少ない。
ホラー映画のようだった。なんの変哲もない、たいくつなストーリーだった。パーキングを歩きながら「きみ」が話しかけてきた。「休憩が終わっても映画に戻りたくない。恐ろしくて。」F氏は続きを楽しみにしているようだった。他の仲間も映画に戻るつもりのようだ。「きみ」の言葉は思いがけなかったが、私も映画に戻らないことにした。
長い休憩時間だった。映画に戻らないつもりで歩いていると、皆もついてくる。信号のある交差点から少し入ったところに、ハイチスタイルのカフェを見つけた。映画が終わるまで時間をつぶすのにいい。そう思っていると、皆が大通りに向かって戻って行くのが見える。皆は通りを渡り始め道路の真ん中で止まった。車線に沿って一列に並ぶと、「きみ」は「思いきってやってみよう」と声をかけ、車線の上を車と逆走し始めた。皆も恐るおそる小走りになる。私は、側にいる友人の警察官に急いでホイッスルを鳴らすように頼む。彼はなぜか躊躇している。ためらいながらホイッスルを口にするがうまく音が出ない。二度三度と鳴らしてようやく音が届く。笛の音に皆が立ち止まり向きを変えて整列する。
(November 2009, my home town, Gunma, Japan)
そこは日本ではないようだった。暖かな陽が森に射し込んでいる。森の木々の向こうに青い空が広い。遥か水平線の先から穏やかに吹いてくる海風が心地よい。森の小径を歩くと小さな菜園があり、平屋の住宅が見える。
私は新しい住宅の提案を届けるために、そこに向かっている。A1サイズほどの大きさのモデルを携えて住宅に入る。他に二名の建築家が提案を届けに来ていた。二人の顔は見えない。三つのモデルが並べられた。私のモデルは白い紙でつくられていて、完成した住宅の姿を表現している。他の二つのモデルはいずれも完成していない。二人ともlegoのようなブロックで一部だけ組み立てている。
見ていると、二人のうち一人が話しかけてきた。「最初はつくれるところだけ造ればいい。後から付け足せばいいし、ほら。」彼は話しながらブロックをつけたり、外したりしている。「そうだよな、子どもの頃はいつもそうしていたな。」私は大切なことを思い出したような気がしていた。
(July 1987, Death Valley, Nevada, USA)
あの日、夢の中で起きたことは何だったのだろう。あの惑星では誰も言葉を交わしていなかった。そもそもそこは惑星だったのか?
そこでは誰も話をしていない。音の存在しない世界。唯一、「きみ」を呼び止めたときに自分の声を聞いたような気がする。しかし、その声に振り向いたのは「きみ」だけで、他の誰ひとり気にかける人はなかった。おそらく、他の誰にも「声」は存在していなかった。
音の無い世界にあって、「声」は別次元の世界の産物なのかも知れない。その世界では「声」は聞くことも見ることも出来ない異物なのだ。「声」の代わりに、そこでは、直接、意識に伝わる何かが飛び交っている。
夢はどのように形づくられるのだろう?あの日、夢の中でみたことは過去の記憶からではなく、どこか遠い未来で起きたことのような気がするし、パラレルワールドを垣間見てしまったような気もする。
(December 2009, ・・・・・)
そこがどこかはわからない。他の惑星にいるようだ。砂と岩で覆われた乾いた大地。世界全体が砂岩のような色で空は青くない。この惑星に住人の姿は見えない。文明が存在するようにも見えない。生命を感じない場所。
何人かでチームを組んで歩いているが、メンバーの顔は見えない。探査に来ているのか?近くに他のチームが見える。その中に「きみ」を見つける。しばらく地表を歩いた後、私たちのチームは別の地点に飛ぶ(歩いてではなく、空中を移動したようだ)着いた場所でチームの中の一人と二人きりになっている。このとき、チームのメンバーたちに、なぜか家族のような懐かしさを感じていた自分に気づく。
私たち二人が着いた場所は、岩の中に掘り込まれた空間になっている。地球の古代人がつくった洞窟の住居に似ている。中に生活の痕跡はない。外にバルコニー状の岩棚がある。出てみると、そこに不思議な生き物(?)の姿がある。それは、腰掛けのような木でできた何かに体をあずけている。地球の軟体動物のような体。人間よりも大きく、その巨体はウミウシのような姿をしている。
私はそれを見ながら、その実体がここにはないことがわかっていた。それは意識を送ってきているだけで、言葉はなく、ただ、存在だけを伝えてきている。一緒にいるメンバーが、それに近づく。「?」、彼は子ども?いや、幼児?いつの間にか、ベビーカーに入るくらいの乳児になっている。次の瞬間、彼を見失ってしまった。緊急事態になった。他のメンバーを探さないといけない。
洞窟から離れメンバーを探して歩く。谷に架かる橋の下を数人が通り過ぎようとしている。その中に「きみ」の姿を見つけ呼び止める。「きみ」は現在の地球で生活している容姿をしている。今の「きみ」の名前で呼びかける。「きみ」は振り向き目が合う。しかし「きみ」は何も言わずに行ってしまう。「きみ」は私をさがしに、この惑星まで来たと、私の意識に直接伝えてきた。私はあたりを見回すが、「きみ」の後ろ姿を見送ることしかできない。
(July 2006, Ezu, France)
あなたが階段を下りると、あなたを追うように、
土星と月が海の中に降りていった。