2009/12/12
seed pot
(December 2005, my place, Tokyo, Japan)
シードポットには小さな穴が一つだけあけられている。このポットの表面には二匹のトカゲが歩いているが、一匹のトカゲの頭のところに小さな穴がある。この穴から種を一つずつポットの中に入れる。中が種で一杯になると、ポットは暗所で保管され種蒔きの季節を静かに待つ。種を蒔くときはポットから種を取り出さないといけない。しかし、どうやってこの小さな穴から種を取り出すのだろう。聞いてみると、なんとポットを割ってしまうという。
毎年毎年、新しいポットをつくり新しい絵を描き続ける。壊すことで新しいものを創るサイクルができあがっている。旅する者にとっては、そこにあるポットはたった一つしかなく、壊してしまえば永遠に失われるような気がする。しかし、彼らの心の中には変わることのないメッセージが生きつづけていて、消えることはない。冬に枯れて種をのこし春になると新しい命を芽吹く植物のように、彼らの芸術も自然のサイクルの中にある。
Acoma Pueblo
(July 2001, on top of a mesa, Acoma, New Mexico, USA)
アコマの集落はメサの頂上にある。アコマ・プエブロはおよそ千年前に拓かれた。現存するものでは、米国で最も歴史のある集落の一つだ。高さ112mの断崖の上につくられ、今でこそ車が通る道路がつながっているが、そこは地上と隔絶した世界であり、千年の時を耐え抜いてきた街の姿がある。
メサの頂上を歩き崖の縁まで行く。広大な大地をさらに大きな空が覆っている。地平線の向こうで真っ白な千切れ雲が次々とわき上がってはメサの上を通り過ぎて行く。地平線の手前にもう一つのメサがある。聞いてみると、アコマの人々はかつて、そのメサに集落を築いたことがあるという。昔、外敵の襲撃を受けたとき、彼らはこのメサを放棄し、もう一つのメサに逃れなければならなかった。そして今、再び先祖たちと共にこのメサに暮らしている。
(December 2005, seed pot, my place, Tokyo, Japan)
閉じられた世界、沈黙した時は、ときとして人に自らの内面に向き合う時間をくれる。そのような時間の存在がアコマにはあるのかも知れない。アコマは芸術の村である。人々は素晴らしい芸術の技を伝承し、今日も創りつづけている。彼らは、芸術を実用のためにつくり、人に気持ちを伝えるためにつくる。豊穣を願うシードポットや結婚を祝うウェディング・ポット。陶器は美しく彩色され、先祖から伝えられている絵柄が施される。その絵の一つ一つが言葉であり、メッセージになっている。絵の意味をたずねてみたが、なかなか教えてくれない。本来は言葉で伝えるものではないという。「一つだけ教えよう」彼はそう言うと、シードポットのトカゲを指差し、「long life」たった一つ言葉を音にした。
2009/12/11
青い色に
(July 2001, Acoma, New Mexico, USA)
ニューメキシコ州の都市アルバカーキから車で半時程南に走ると、赤く焼けた大地に聳えるテーブル・マウンテンが姿を現す。テーブル・マウンテンはメサとよばれている。地球が生きてきた悠久の時間を感じさせる象徴的な風景だ。メサの上には地上と隔絶された文化が今も息づいている。
村を歩くと、住居の窓や出入り口の周りが青い色で縁取りされていることに気づく。聞いてみると、出入り口の周りを青く塗っておくと家の中に悪霊が入ってこないと言う。青は魔除けに使われる色ということだ。
どうも青は特別な色らしい。日本でも古くから多くの人が青に魅せられてきた。いにしえの時代、人は想いを伝えるために青い玉を贈ったという。青は愛情を伝える色であり、大切な人の幸せを願う色だった。地球の反対側のアコマの美しい青につれられて、いつの間にか、遥か遠い古代の日本の連想を旅していた。
2009/12/10
街路
(June 1990, Centre Pompidou, Paris, France)
「つどい」は都市の本質だ。つどうことは人間の根源的な欲求から生まれる。人は自己を表現し、自分の中にある何かを伝え、人と共有したいと願う。その人間的な欲求から人はつどうようになり、つどいが始まった場所が街路となった。そして、街路が生まれたとき、都市の姿がつくられ始めた。街路は人がつくり出したもっとも人間的な場所であり、人間がつくった最初の空間だ。
現代都市の中では「つどい」の場所をみつけることが日々、難しくなっている。そのことに反比例するように人とつながりたいという欲求は強くなっていく。街を歩いていて気づかされるのは、そこには道路はあるが街路は無いということだ。
2009/12/06
Simple Shaker Style
(October 2003, New Lebanon, NY, USA)
ニューヨーク州北部のニューレバノンにあるシェーカースタイルの
住宅に宿泊した。シンプルな木造でペンキ仕上げの質素なつくり。
素朴な佇まいが紅葉の美しい庭と響き合う。この住宅は、どこと
なく温もりを感じる空気で満たされていて、安心のうちに一夜が
明けていった。
住宅は地域の文化と生活に特別な関係がある。旅の途中で訪れる街のそれぞれに、その場所ならではの住宅の姿がある。床に響く足音を想像しながら床の材料を削り出す。書斎をつくるために、仕事に集中できる色を探し天井の高さを決める。安らかな眠りにつくための場所について考えをめぐらす。
文化の中で鍛えられてきた住宅には神秘的な魅力がある。磨り減った階段や錆び付いた扉の蝶番が、住宅が生き抜いてきた時間を証言している。それらの一つ一つが時をこえた感情を呼び醒す。
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