2009/10/07
1979年春の出来事
(January 2005, Torres del Pine, Patagonia, Chile)
突然の猛烈な風に岩壁の雪が渦を巻いて舞い上がった
登山において最も恐ろしい出来事は雷との遭遇だ。山岳では想像を超えた雷が出現することがあり、そんなとき、私たちは身を守る術がない。地電流や球電はその一つだ。球電は直径二十センチ程の大きさの球状の雷だ。オレンジ、黄色、赤、青など様々な色が観察されている。わずか、秒速2〜3メートルで空気中をふわふわと浮遊するように移動する。
1979年の春、山岳史でたった一度、この球電が記録される出来事が起こった。雷雨を避ける人でごった返す山小屋に突如球電が現れ、軒下の外壁に直径50センチの穴を開けて室内に侵入した。球電はそのまま、三つの部屋を通り抜けると、天井をぶち抜いて去っていった。この間に十一人が感電した。球電は音も立てずに消え去ることもあれば、瞬時に爆発を起こすこともある。人に触れても傷跡も残さないこともあれば、爆発し人を死に至らしめることもある。