2009/09/29

こうして月の顔は傷だらけになった・・・


(January 2009, Tokyo, Japan)

 あるとき、月がウサギに言った。
「人間たちのところに行って、月が死んでもまた生き返るように、人間もまた死んでも生き返るようにしてやる、と伝えてこい。」ところが、ウサギは天界から大地へ降りていって、人間たちに間違ったことを言ってしまう。
「お月さまは死んでも再び生き返るが、お前たちはいったん死んだら生き返ることは出来ない。」
 これを知ったお月さまは立腹し棒をウサギに投げつける。棒はウサギのくちびるに当たる。あまりの痛さにカッとなったウサギは月に飛びかかり爪でひっかく。 
 こうしてウサギの間違いから人間は死なねばならなくなり、こうしてウサギのくちびるは裂けており、またこうして月の顔は傷だらけになった・・・。      ホッテントットの伝説 北杜夫「月と狂気について」より